本多農園の特色:茅の利用

耕作放棄地にはびこる茅

「茅」という素材について

茅は、昔の農村では屋根の材料として利用する大変重要な資源でした。各々が自分の土地を提供し茅場をつくり、毎年の火入れから刈り出しまで村全体で協力して行ってきました。→茅とは
茅を毎年刈り取ることで、農村内に茅がはびこることもなく、里山の一部分としてきちんと管理されていたのです。

一方で現在では、茅は耕作放棄された畑にはびこる、やっかいな植物の代表になっています。

耕作放棄された畑は、最初期では小さな雑草が生える程度ですが、年月が経過すると大きな植物が生え始め、だんだんと森に近づいていきます。その最終段階に生える植物が茅であり、畑が森になる一歩手前の状態です。

このようになった畑は、鹿や猪が、隣接する耕作された畑へ侵入する際の通り道や待機場所となり、獣害を助長します。このような意味でも、茅の刈り出しは里山を管理し、人間と獣の境界を維持する重要な作業だったのです。

茅をマルチとして畑に敷いています

本多農園では、獣害対策と、天然素材のマルチとするために、隣接する耕作放棄された畑から茅を刈り出し利用しています。
大きくなった茅を刈り、運び出し、マルチとして敷いていくのは大変ですが、メリットがあります。

①土に還るエコマルチとして利用できる

茅マルチは雑草の成長を抑え、昆虫や小動物の住みかや微生物の餌となり、やがては土となり畑に還ります。茅は、稲わら・麦わらに比べると硬くツルツルしていて炭素成分が多いため、微生物の分解が遅く、敷いてから一年程度で分解され土に還ります。そのため、早々に分解されてしまい敷き直す必要もありません。

ただ、雑草の成長を抑える効果は、市販のビニールマルチに及ばないため、都度刈った雑草を雑草マルチとして敷いていき、マルチ効果をプラスするようにしています

また、市販のマルチを利用する場合に期待する保水についても、効果があります。
育苗時以外は天水頼みでほぼ灌水をしないので、土の表面が乾き水が抜けていくことを防止できればと考えています。

②地温を下げるマルチとして利用できる

本多農園でメイン品目として栽培している花豆は、冷涼な気候を好む作物です。
近年進んでいる気候変動は温暖化を促進し、花豆の栽培限界標高を引き上げつつあり、ここ三富も例外ではありません。
とくに私たちが花豆の栽培を開始した2018年の夏は記録的な暑さとなり、試練の年となりました。

日射による気温上昇は、地温が高まることによって進みますが、市販の白マルチを敷くと日光が反射され地温の上昇を緩和します。刈られてカラカラになり白くなった茅は、天然の白マルチになります。

効果について検証したわけではありませんが、大きくは外れていないだろうと考えています。

③獣害対策になる

茅場は、獣にとって格好の隠れ場所です。
茅は大きく育つと、株の直径1m・高さ1mほどにもなる巨大な植物で、隙間なく生えるようになると、外部からの視界を完全に遮ります。
実際に茅場に足を踏み入れると分かりますが、茅の間には猪のヌタ場があり、棲み処になっています。また、路上にいた鹿が逃げる際には真っ先に茅場に突っ込んでいきます。

夕方に畑で作業をしていると、茅場や林の中から「ガサガサ」「ポキポキ」と音が聞こえることがあります。この音は、畑の様子を伺いに来た猪が、茅場や林の中を移動しているものです。人間がいることに気づくと立ち止まり、様子を伺い始めますが、こちらからは位置の確認ができません。

鹿は、茅場や藪にジッと潜んでいることがあります。こちらが気づかずに数メートルの距離になった時に急に飛び出して逃げていくため、驚かされます。

茅を刈ることで、畑の周りで獣が自由に闊歩する領域を減らし、山に押し戻すことができます。
また、茅場の中では罠を仕掛けることができないので、獣に茅場を利用されることは厄介なことなのです。